『了巷説百物語』 京極夏彦
巷説百物語シリーズを通しで読んだ。前に何冊かは読んだことがあったけど、完結編が出たということで、この機会に全巻を一気に読み直してみた。
『巷説百物語』『続巷説百物語』『後巷説百物語』『前巷説百物語』『西巷説百物語』『遠巷説百物語』に加えて『数えずの井戸』を読んだ。全部で5,000ページくらいになるだろうか。さすがに結構大変だった。
時代劇が書きたかったというような作者コメントをどこかで見たような記憶があるが、実際後半になるにつれ、あるいは物語のクライマックスに近づくにつれ、大味な仕掛けやスーパーな戦闘力で敵を薙ぎ倒していく展開が目立つように。強い侍、飛火槍、小衛門火あたりのチート感がすごい。
法で裁けない悪事を捌こうと思うと、辿り着くところは火力なのは仕方ないのか。
「了」は又市も百介もあまり出てこず、様々な登場人物の視点で話が進んでいく。出てくるエピソード、出てくる人物は基本的に過去の作品からのものになるので、知らないとなかなか解釈が難しいだろうと感じる部分が多かった。全部読み返してみてよかった。
シリーズ途中から、主要人物たちが皆「自分ははぐれもの。薄汚い人生で構わないが堅気のみんなの暮らしはいいものにしてやりたい」みたいな卑下した正義感が強くなっていくので、勧善懲悪もの的に読んでいてもカタルシスが足りない。世直しをするなら前向きな主人公が欲しかったし、はぐれ物で進めるならめちゃくちゃな事件をもっと楽し気に巻き起こしてほしかった、みたいな気持ちはある。文学でもミステリーでもなくエンターテイメント側に進んでいったのに、あまり誰も幸せにならないのはどうなん、という。
とはいえ、好きなシリーズではあるし、完結まで一通り読めたのは満足感が大きい。「全部妖怪のせいにしちゃえ」っていうすごいアイデアを初めて読んだ時の興奮を思い出せて、楽しい時間が過ごせた。