『人類最高の発明アルファベット』
ジョン マン (著), 金原 瑞人 (翻訳), 杉田 七重 (翻訳)
基本的にはアルファベットの歴にに関する考古学的な解説のはずなのですが、著者の感想・妄想パートが強くて何が事実なのかちょっとわかりにくかったです。
ヒエログリフ→原セム文字→フェニキア文字→ギリシア文字→ラテン文字という流れを追うだけなら、Wikipedia 音素文字の歴史 あたりを見るほうが分かりやすいです。
一方で、この本は思考実験として読むのが面白いです。
例えばアルファベットの強みというのはその曖昧さにあるという指摘などにはハッとさせられました。
まず、文字を単語および表すものの形状などから独立して、発音を表すために用いたこと自体がアルファベットの強みです。ある単語を似た発音の単語で代替する(例えば「帰る」を表現するために蛙のグリフを書くような)手法はヒエログリフの頃からあったそうですが、それを音節のレベルに分解して抽象的な「文字」とすることで、表現の高い汎用性を得ました。
この音節レベルの文字というのは厳密な意味では本当は簡単ではありません。日本語で「ら」がlaとraを区別しないように、「そこ分かれるんだ」「こんな発音あるんだ」というのが世界には無数にあります。けれどそんなことにはこだわらず、だいたい伝わればいいという曖昧さで10-50個程度の文字にまとめたところこそ非常に有用だったということです。そのおかげで、文字の習得が簡単になったばかりでなく、若干の調整で異なる文化・異なる言語でも同様のコンセプトを用い、また同じ文字そのものを使うことさえできたというのです。
ラテンアルファベットだけでなく漢字、キリル文字、ハングルなどいろんな文字にちょっと愛着が湧くような本でした。
あと本編とは関係ない記述ですが「中国語でやりとりをする場合、ラテン・アルファベットのシステム、すなわちピンインを使ってタイプを打つことになる。ピンインだけでは中国語の声調がわからないから、コンピューターの画面にはたくさんの文字が並ぶことになり、そのなかから文脈に合った文字を選ぶ必要がある。なんとも面倒なシステムだ」とあって、本当にそのとおりだなチクショウと。アルファベット圏からすると意味不明なシステムだろうな・・